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  • PR誌『評論』177号:“サステイナブル(持続可能)”とは何か ──『環境・自然エネルギー革命』刊行によせて

“サステイナブル(持続可能)”とは何か ──『環境・自然エネルギー革命』刊行によせて

中村太和

地球温暖化問題が、人類の存続に関わる国際政治・経済上の最重要問題として浮上している。ピーク・オイル論争に見られるように、枯渇性資源としての石油の限界も現実の問題になりつつある。安価な石油の浪費に依存した大量生産─大量廃棄という現代的経済システムは、資源・環境の両面からすでに限界にぶつかっている。それに代わる新たな社会は、資源の一方通行型収奪システムではなく、“サステイナブル(持続可能)”という理念に基づく循環型社会であるという点では世界の共通認識があると言ってよい。問題は、“サステイナブル”とは何か、どのようにしてそれを具体化するのかということである。
本書における筆者の基本的な見解は、以下の二点に集約される。
“サステイナブル”な循環型社会の最も重要な基盤は、自然エネルギー・バイオマス(生物資源)と小規模・分散・ネットワーク型技術を活用した“食料・エネルギー・水の地域自給”システムである。
近い将来に発生する海溝型巨大地震などの大規模災害に対応するためには、地域資源を活用した自立=自給システム(ライフ・スポット)を整備することが必要であり、「環境」と「防災」を統合する視点から“食料・エネルギー・水の地域自給”システム作りを進めることが必要である。

循環型社会と“自給”の現代的意義
“自給”などと言うと、「江戸時代に戻るのか」「グローバリゼーションの時代に“自給”などあり得ない」という反論が予想されるが、問題意識を持って周囲を見渡せば“自給”はすでに現実のものになっていることが分かる。住宅建設において「創エネ」「マイホーム発電」は重要な販売戦略になっているが、これは最新技術を活用した“エネルギーの地域自給”の一つの姿である。家庭菜園・市民農園・都市近郊農業は“食料の地域自給”の基盤であり、雨水・地下水利用が進んでいけば、脱ダムすなわち“水の地域自給”が具体的な姿を現してくる。
循環型社会とは、・地域資源を掘り起こし、・資源を地域内で循環させ、・循環の過程で廃棄物を処理する社会システムである。気候・風土・歴史の多様性を考えれば、活用すべき地域資源と資源循環のあり方は多様であり、それぞれの地域の多様性と豊かさを確認する作業が循環型社会への転換の第一歩である。“パラダイム転換の時代”においては、これまでマイナスの評価しか受けてこなかったものも「地域の宝物」になる。例えば、地域資源を活用しつつわずかのエネルギー利用で生活するライフ・スタイルという視点から見れば、「限界集落」はその一つのモデルであるし、経済成長を妨げてきた「豪雪」も、雪氷エネルギーという視点から見れば、自然エネルギーの宝庫である。

「環境」と「防災」の統合
電力・水道・通信などのライフ・ラインは、ラインであるが故に大規模災害に対して本質的に脆弱である。災害に強い地域づくりを進めるためにはライフ・ラインから自立したライフ・スポットを整備することが必要であり、このような自立システムは循環型社会を支える“自給”システムの基盤になる。「ライフ・ラインからライフ・スポットへ」というテーマは、そのまま「防災コミュニティから環境コミュニティへ」というテーマに接続することになる。
COP15では先進国間、先進国・途上国間の利害対立で新たな枠組み合意は得られず、人類の未来には赤信号が灯っている。鳩山政権の25%削減公約の将来も不透明である。循環型社会への転換の突破口を拓いたのは、ドイツのアーヘン、フライグルグなどに代表される地域レベルでの取り組みであった。それが国家レベルでの政策転換をもたらし、COPに見られるような国際レベルでの取り組みを生み出してきた。日本でも「自然エネルギー100%コミュニティづくり」「市民共同発電所」など、地域・住民主導の多様な取り組みが各地で進められている。地域レベルでの取り組みの成果の積み上げこそが、今必要である。            [なかむら たいわ/和歌山大学経済学部教授]