神保町の交差点

●コロナが五類に移行して迎えた年末、神保町界隈にもかつての賑やかさが戻ってきました。年末の飲み会も増える中、久しぶりの顔ぶれが集まると、この3年の商売状況の報告会が始まります。どこも口を揃えて言うことは一緒です。コロナ禍1年目は、引籠り生活で、「本」が再注目され、「本」復権とばかりに業界も賑わうと思われたのですが、コロナ禍が明け始めると、市場の欲求が「本」から遠ざかってしまった、そんな印象が残ります。宴席で酔いが回りはじめると、いつもきまって出る難問があります。それは「売れる本が良い本なのか」です。いろんなジャンルの版元が集まっての宴席です。いろんな意見が出ます。一般書版元の営業は、「本が良く売れ、おかげで「蔵」を建てることができた。会社、社員を裕福にするのが「良書」だろう」。そう言います。一方の専門書版元は、「いやいや十年、百年読み継がれるのが「良書」だ」。そう言い返します。こんな内容で、業界の行く末についての話は尽きません。数十年前は、今よりも読者、大学などの所蔵先も多く、研究書でも1500部、2000部を刷ることができました。小社にも「売れた本」=「良い本」の認識はありました。しかし、「本」が売れなくなってくると、その認識に変化が生じました。本の作り手として、どんな本を作るべきか、小社にとって「良書」とは何か。

●10月初旬、独立法人労働政策研究・研修機構のご担当者から、市原博著『近代日本の技術者と人材形成・人事管理』(2022年刊)が「第四六回労働関係図書優秀賞」に選出されたと連絡をいただき、12月21日、受賞式の行われる飯田橋のホテルへと向かいました。研究書の授賞式と思えない盛大な式典で、著者と共に版元まで表彰していただきました。市原先生は受賞スピーチで、本書に行きつくまでの研究経緯を丁寧にご説明され、最後に「よくも売れない本を引き受けて下さった」と、弊社へのお礼とねぎらいの言葉をかけてくださりました。その後の懇談の場で、式典に列席されていた小野塚知二先生をはじめ、ほかの研究者の方々とお話しでき、「日本経済評論社らしさ」とは何かをあらためて考えさせられました。小社が今までそうであったように、今後も研究者のよりどころであり続けることが、小社にとっての「良書」を作ることへのひとつの答えではないか、そう気付けた一夜でした。 (僅)