神保町の交差点

●今年1月、2022年の出版市場の総売上が、公益社団法人全国出版協会より発表され、書籍が6497億円、雑誌が4795億円、電子が5013億円、合わせて1兆6305億円でした。総売上が下がるなかでも、上位50社の売上が一兆円以上を占め、3000社余りが残りを占めるこの構成比率は長く変わっていません。そんな出版界ですが、気になった出版社の破産が6月にありました。

●「マキノ出版」は、健康雑誌のパイオニアと言われる『壮快』をはじめ、女性向け情報誌『ゆほびか』、健康情報誌『安心』や実用情報誌、書籍などを手がけ、年間90点ほどを刊行する中堅出版社です。しかし、昨今の離れゆく読者に対応しきれず、2023年3月、民事再生手続き開始決定が公表されました。業界紙『新文化』(4月13日号)では一面で、「業界関係者をどよめかせた。健康情報誌分野の草分けで、「手堅い出版社」といわれていた同社がなぜ、こうした事態に陥ったのか。そして、なぜスポンサー候補の企業が九社にものぼっているのか」と記事が載り、厳しい状況下でも、スポンサーと共に再建していくものと思ったのです。しかし、最終的にはスポンサー企業は現れることなく、6月に看板を下ろしました。かつて、出版界は他業界から見てとても魅力的であり傘下にするメリットがありました。直近では「実業之日本社」がそうです。今はその様に見られることがないのだと、気づかされた出来事です。

●出版界では読者層が多く安泰と言われたシニア向けの刊行物ですが、近年の部数減が深刻で、もはやシニア頼みが通用しない状況だそうです。原因の一因が書店数の減少であると言われ、直近の書店数は1万店ほどと、全盛期の半分以下です。現代のシニア層もスマホやパソコンでショッピングを楽しむとされる一方で、アマゾンなどのネット書店を利用できない層も少なくありません。近所の書店が閉店すると、そもそも本を買うことができない状況になります。地域に書店が一店もない「無書店自治体」は、全国1741市区町村のうち456、実に四分の一となりました。この状況を踏まえた今後の「本づくり」が課題です。

●2023年6月24日、日本観光研究会定時総会において『帝国日本の観光』千住一・老川慶喜編著(2022年)が第一六回日本観光研究会学術賞「観光著作賞(学術)」を受賞されました。心よりお喜び申し上げます。(僅)