• TOP
  • PR誌『評論』
  • PR誌『評論』226号:政治と経済のつながりを可視化する意味

政治と経済のつながりを可視化する意味

羽田 翔

 〝経済学的に安全保障はどのように捉えられるのか〟

 〝公共政策はどのように決定されるのか〟

 〝施行された政策はどのように評価すべきなのか〟


近年、政治・経済・政策の関係への関心が非常に高まっている。日本を含む世界全体では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延、ロシアによるウクライナ侵攻、環境問題の深刻化など、多くの問題に直面している。

COVID-19の流行により、各国政府は迅速な対応を求められた。特に、ヒト・モノの国内・国際移動を制限する政策が施行された。ロシアによるウクライナ侵攻により、エネルギーや食糧の不足および価格が高騰するなどの問題が発生した。結果として、企業への補助金、失業者への給付金、無料のワクチン接種、財政改革など、多くの対策が必要となった。

いずれの問題でも、いわゆる経済学が考える「最適な政策」は施行されているのか。現実には、非効率な政策の施行、または政策の施行自体が頓挫してしまう事例が多くみられる。このことは、経済学が政策決定のプロセスを考慮していないためである。つまり、政治と経済のつながりを考慮せずに政策的議論を行っているといえるのではないか。

COVID-19が流行した時期には、日本では2つの国政選挙があった。2021年10月の衆議院議員選挙では、COVID-19対策としての給付金が争点となり、各党は給付金の必要性ではなく、給金の金額を争点としていた。投票率は55.9%であり、第二次世界大戦後3番目に低い数値であった。また、アメリカでは2021年に大統領選挙があり、COVID-19対策は重要な争点の一つであった。投票率は66.7%であり、歴史的に高い数値であった。いずれの選挙においても、候補者は何を考えて立候補しているのか。また、有権者は何を考えて投票する候補者を決定するのか。それ以前に、なぜ投票自体を行うのか。これらの点を理解しないことには、現実の政策をどのように施行するかについて深く議論できないのではないか。

2022年10月に刊行された『政治と経済はどうつながっているのか──政治経済学の基礎』は、政治経済学の教科書としてまとめられている。本書には2つの特徴がある。一つ目は、冒頭の疑問に関連して、現在必要な政策、政策決定のプロセス、政策の評価について学ぶために、公共経済学、公共選択論、公共政策論の観点から政治と経済のつながりについて説明している。公共経済学は、「限りある資源をいかに効率的に投入し、最大限の結果を達成するのか」という経済学の考えを基礎にしており、主に市場では取引が困難な財・サービスの供給を対象としている学問領域である。公共選択論は有権者、政治家、官僚などの政治的アクターは合理的行動をとるため、必ずしも望ましい政策が実行されるとは限らないことを示している。最後に、公共政策論は、公共政策の必要性に加えて、「政府」が、「どのようにして」、「社会全体の」、「どのような問題」を解決するかといった問題を対象とする学問分野である。

二つ目に、政治に関する議論は、時として感情的なものとなるが、感情に左右されない数理モデルや数値によって政治と経済のつながりについて見ている点に特徴がある。数理モデルとは、社会現象や政治プロセスなどの仕組みについて、数学的な手段を用いて記述された理論モデルを意味する。つまり、複雑な現象を擬似的かつ客観的に表現することで、より客観的な議論を行うことが可能となる。そのため、現実の現象を眺めているだけでは見えてこなかった社会現象のメカニズムや発生原因を表現したり、これらの関係性を使用して未来の予測などを行ったりすることも可能となる。理論モデルで採用される変数を「数値」によって表現することを、数値化とよぶ。この数値化の意義や、統計分析による因果関係特定の重要性を説明している。本書が真に意図するところは、政治と経済のつながりを可視化し、時として感情的な議論となる政策的課題の解決について、理論的・実証的に分析する力を身につけてもらうことである。本書が、多様化する政治と経済の関係について、読者の皆さんに理論的・実証的に考えてもらうきっかけとなれば、著者としてこれ以上の幸いはない。

[はねだ しょう/日本大学准教授]