神保町の交差点

●コロナ禍が落ち着き、以前の日常をとり戻す兆しが見え始めたのに、ウクライナ侵攻により不穏な情勢となっています。そんななか明るい話題があります。この一年で5点の刊行物が、様々な分野で賞を受けました。柴田努著『企業支配の政治経済学』は、企業は誰のものかを主軸に置き、株主、経営者、労働者の力関係がどのように変化してきたか、という研究が評価を受け、第十二回経済理論学会奨励賞を受賞しました。張楓著『近現代日本の地方産業集積』は第十六回企業家研究フォーラム賞を著書の部で受賞、昨年の張楓編著『備後福山の社会経済史』第四十五回中小企業研究奨励賞に続いての受賞になります。田村信一著『ドイツ歴史学派の研究』が第六回経済学史学会賞を受賞。田村先生はドイツ経済思想を研究され、シュモラー著『国民経済・国民経済学および方法』の翻訳もしていただきました。八木洋憲著『都市農業経営論』が2022年度日本農業経済学会学術賞を受賞。近年、問われる都市部の農業経営について、八木先生の精力的な研究に注目が集まっています。中山裕史著・中武香奈美編『幕末維新期のフランス外交』が日本仏学史学会の賞を受賞しました。故中山先生の20年に及ぶ外交官ロッシュ研究が高い評価を得ての受賞です。さらに日仏図書館情報学会では、この本を編集された中武香奈美氏が第一二回小林宏記念日仏図書館情報学会賞しました。残された原稿と膨大な資料を「本」(かたち)にされた功績が讃えられたのです。
●小社の株主であり監査役も務めていただいた元有斐閣編集者の池一氏が4月5日に永眠されました。突然の訃報に言葉を失いました。池氏は、いつも笑みを浮かべ、ゆっくりとした優しい口調で、「ほんわか」とした雰囲気の人でした。しかし、7年前の株主総会では、増えた在庫を断裁した事に対し、真剣な面持ちで「会社の財産を捨てるとは何事だ。」と発言され、「このようなことを招かないよう、経営者は原価表や販売管理計画をもとに、刊行物の方針を示さなければならない」と諭されました。この業界を担われてきた経験を、小社に注いでくれたものと思います。池氏からよく言われたことが、「社長はそろばん勘定するのは当たり前、社員を大事にすることで、これからのこの会社の行く末が決まるんだぞ」。大変な課題をいただいております。
池一様、そちらに行くことはしばらくございませんが、どうか温かく見守っていただければと思います。 (僅)