編集部だより

 昨年の本誌二一六号で、慶應義塾大学の中西聡先生は、学生に「生産と流通と消費」を「バランスよく教えようと努めている」と述べられた。そのなかのひとつ、「消費」はどのように考えたらよいだろう。本誌で実現したささやかなアリーナは、これが非常にエキサイティングな議論であることを改めて教えてくれる。河村徳士先生は輸送産業史のご研究を経て、産業構成の変化を捉えるのに欠かせない側面として、真正面から消費を史的に明らかにしようとされる。それに対して原山浩介先生は、同時代性に釘付けにされた用語のひとつひとつの丁寧な整理の先に、議論の空間を見出そうとされる。満薗勇先生は歴史の中に消費者の姿を追いつづけておわれており、そのまなざしは徹底して、それぞれの地域で生きる現実の人びとへと向けられているように感じる。
 大衆的な差異の消費にかかわる人びと、戦後日本の文脈のなかで消費の「当事者」であった人びと、地域に生き、労働し、消費を通して生活を営む人びと(最も象徴的なのが商店街の小売業者たちでしょうか)の〈消費〉について、アリーナの探究はまだまだ始まったばかりである。学術出版社としてこの鉱脈を逃すわけにはいかないだろう。