神保町の交差点

●今から十年前は、出版物の流通は日本出版販売株式会社、株式会社トーハン、株式会社大阪屋栗田(現・楽天ブックスネットワーク㈱)、栗田出版販売会社、株式会社太洋社の五大取次と三十社弱の中小取次が全国の書店にくまなく本を届けていました。しかし、業界四位だった栗田が二〇一五年六月に倒産し、翌一六年三月には五位の太洋社が自主廃業し、業界では大騒ぎとなったのです。二社の取引先書店は、他の取次と新規契約を結び直すものと、大多数の版元は思っていたのですが、実際は新たな取引条件の厳しさから多くの個人書店は廃業を選んでしまいました。取次二社が倒産した要因として、業界紙はじめ版元からも問題視されていた「統一正味」問題というのがあります。「正味」とは、版元が取次に卸す掛率を指します。老舗、大手版元はこの正味率が高く、新参者ほど低くなります。取次は仕入れた本を老舗書店や大手チェーン店など、何割かの手放したくない書店に向け販売率を統一して納入します。版元から納入した本が高正味の場合だと、取次の持ち出し、いわゆる逆ザヤになることがあります。しかし取次が売り上げをのばし、シェア拡大をするうえで「統一正味」を武器に水面下で書店を奪い合ってきました。競り勝っても、利益幅が低い「統一正味」では好景気ならまだしも不景気になれば社の体力を大きく奪うことになります。今年一月、ジュンク堂書店、丸善書店が楽天ブックスネットワークからトーハン、日販へ帳合変更する旨の通達がなされました。楽天ブックスネットワークが「統一正味」の大幅な変更を丸善ジュンク堂書店に申し入れたのですが決裂したのです。今年二月から帳合変更期日の四月末までに、小社に約二〇〇〇冊の予定していない書籍が楽天ブックスネットワークから返品されました。ジュンク堂書店だからと、新刊はもとより注文をセッセと出庫してきましたが、あまり売れていないことを返品伝票を見て知ったのです。帳合変更によるこのような返品状況は過去ありませんでした。結果、多くの専門書版元が、取次と書店で繰り広げられたこの「統一正味」に巻き込まれた出来事となったのです。
●二年前、日本大学法学部の岩崎正洋先生が発起人となり、日本大学、立命館大学、同志社大学、青山学院大学の法学部の各先生らにご執筆いただき、「シリーズ政治の現在」を刊行することとなりました。既に野田遊著『自治のどこに問題があるか』、杉浦功一著『変化する世界をどうとらえるか』、松元雅和著『公共の利益とは何か』の三冊はこの春に刊行しましが、続刊として、杉本竜也著『西洋政治思想史(仮題)』、宮脇昇著『戦争と民主主義の国際政治学(仮題)』、柳瀬昇著『統治機構論(仮題)』と今後十冊ほどの刊行予定となっています。シリーズ完結までは三年弱を予定していますが、今後、どのようなラインナップがなされていくのか楽しみです。
●この一年、小社創業五十周年記念の企画として「評論」に小社の歴史にそくしたテーマを各号にもうけ、〈宙〉進行のもと完結することができました。第一回は経済学研究、第二回は災害とコミュニティ、第三回は歴史学研究、第四回は学術出版と、延べ十四名の研究者と岩波書店の編集者のお力添えで完遂することができました。読者からたくさんの感想をいただきました。ご執筆いただいた皆様にあらためて御礼申し上げます。
●第五〇期の決算書がまとまりました。五〇期の株主総会は前期にひき続き書面での通知となり、株主様からの身が引き締まりながらも温かい叱咤激励を受けることができませんでした。決算書を監査役、役員に承認いただき総会を終えることができました。第五〇期を超えこれからの五〇年に一歩踏み出しました。