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特集●10年目の〈3・11〉─何をどのように選びとるか 日本のエネルギー選択──アメリカ新政策始動と震災10年

小林健一

バイデンの環境エネルギー政策構想は次の通りであった。気候変動対策が喫緊の課題であり、大統領就任初日から、石油ガス採掘メタンガス規制、燃費規制強化によるEV普及促進、連邦公有地の石油ガス新規リース禁止などの措置を行う。また、1年以内に2050年に向けたCO²排出ゼロの経済社会実現のための法律を制定し、さらに、パリ協定に復帰し、各国がより一層排出削減を行うようリーダーシップを発揮する。

同政権は任期四年間にクリーン・エネルギー、技術開発に2兆ドル(約200兆円)を投じて、世界一の水準の気候変動対策技術を開発し、普及させる。たとえば、2030年までにEVのための充電器を50万台設置する。クリーン・エネルギーの分野でのインフラ投資などによって、1000万人の中流の雇用を作り出す。

これらの政策には、汚染者にその汚染コストを確実に支払わせる規制を組みこみ、また、気候変動は、とくに有色人種、低所得層の多い地域に集中的に被害を与えるのでそれへの対策を最優先にする。さらに、エネルギー市場の変化により石炭産地などが苦境に陥ったが、これらの地域における職業病対策、職業訓練、そして地域振興の課題に取り組む。事実、バイデン大統領は就任初日に、パリ協定復帰の大統領令に署名した。新政権は反対も根強いなか、積極的な環境エネルギー政策実現に努力してゆくだろう。

ところで、日本でも2020年10月に、菅新政権が突然、2050年までにCO²排出実質ゼロを政策目標に掲げ始めた。同年12月のグリーン成長戦略では、2050年に再生可能エネルギーが50─60%、水素・アンモニアが10%、火力・原子力が30─40%という参考値が示された。経済産業省はこれを中心に検討し、2021年夏に新エネルギー基本計画を策定するという。賛成ではあるが、驚きと不信感も持たざるを得ない。というのは2015年に決めた政府目標(電力分野では、2030年に天然ガス27%、石炭26%、再生可能エネルギー22─24%、原子力20─22%)とはあまりにも異なっているからである。これには多くの批判があったが、政府は頑迷に押し通してきた。

第一に、2015年目標のうち、原子力20─22%は非現実的な目標であった。というのは、これを達成するには原発を30基以上再稼働させなければならない。それはとても無理だという批判が強かった。ちなみに、2010年のエネルギー基本計画は2030年に原発は再生エネと合わせて70%に、つまり原発50%以上を目標とし、原発中心主義となっていた。2015年目標は何としても20台は維持したかったのだろう。そして今回の「火力・原子力を30─40%」は、まず火力と原子力を合わせているのは奇妙であるが、そうすることによって、原子力を最大40%にできるという意図があるのではないだろうか(橘川武郎著『災後日本の電力業』2021年、「あとがき」や、朝日新聞2021年3月7日二面記事を参考にした)。

第二に、石炭26%も国際情勢からすれば、実行不可能であった。石炭にも固執するのは、原発が思うように再稼働できなかったからであろう。2013年にオバマ政権は、石炭火力発電所新設への公的資金支出に反対を表明しており、石炭火力発電所を輸出しようとしてきた日本への国際的批判は日を追うごとに強まっていた。

2015年目標は、再生エネも育成しているというポーズをとり、その実、原発と石炭という伝統的電源を守り抜きたい大企業にOKを出した政策であった。しかし、世界では再生エネが急激に主電源化しており、2015年目標は国際的にまったく説得力がなくなった。そこで、突然、2020年10月、新政策の発表となったであろう。日本のエネ政策を担う経済産業省は大企業が認める範囲内でしか動いてこなかったが、ようやくその限界を悟り、世界の最後列に加わったのである。

しかし、今回ようやく、世界水準に追いつく「グリーン成長戦略」が打ち出された。今後、日本政府が後戻りすることなく着実に実行するよう監視を続けなければなるまい。なお、バイデン政権からの圧力もあり、日本は後戻りしにくいと思われる。

[こばやし けんいち/東京経済大学教授]