記念特集第四弾刊行にあたって 

ジャーナルを基準とした海外の評価システムに比べると、民間を含む数多の出版社による学術的な出版物が著者=研究者の評判をも呼ぶという日本特有の文化に気づく。高度成長期までつづく「教養主義」のおかげか、学術的な出版物のマーケットは研究者のコミュニティをこえて、大きくひろがっている。そこに学術書専門の出版社は生かされてきた。

研究者のコミュニティ(学界・アカデミア)と、その外側にひろがる社会を区分して考えてみたい。老川先生による提起は、社会と研究界の判断のずれを指摘している。社会が許容しても学界の倫理では認め得ないこともある。また岩波書店の敏腕編集者・吉田浩一さんのご指摘は、この学界と社会をつなぐ「回路」についてである。アカデミック・ライティングでは、広く社会で読まれにくい。学術論文を書籍化するには、一定程度の改稿によって論述を「翻訳」し、テーマを社会の関心に関連づけて再設定することが必要だ。しかしそのような改稿が研究者である著者に納得いただけないこともある。そして編集者は、著者のご機嫌を損ね他社に原稿を持ち込まれてしまうことを恐れるあまり、改稿が不十分なまま刊行してしまうことも多い。労務管理の専門家でもある小野塚知二先生からの「著者を甘やかすな」という叱咤には、企業人かつ編集者として背筋の伸びる思いである。回路づくり・本づくりは社会に迎合するのではなく、専門的に深められた知見を社会に提供する仕事である。研究者の皆様に支えられ、社会に貢献する仕事への矜恃をもちたいと思う。

弊社設立50周年記念企画は本号で終了となります。お読みいただきまして、誠にありがとうございました。(宙)