神保町の交差点

●専門書出版社は新刊書を出していくだけでは食べていくことは難しい。多くの既刊書とその中からわずかでも販売良好書が出続けることで、食べることと会社を存続することができます。代表を四年経験しての実感です。
COVID-19の蔓延によって、4月16日に政府の緊急事態宣言が全都道府県に拡大され、翌月25日に緊急事態解除宣言が発令されるまで、経済活動は不要不急の自粛と、休業の限定的な緩和はあるものの数多くの業種が全国規模で営業自粛、業務体系の見直しを迫られ、それに伴う多くの負担を余儀なくされました。経済活動がほぼ停止していた40日間、そこに、3月初旬からの自粛期間を合わせれば約2ヵ月、人の移動が停止するという事が、社会経済にこれだけ深刻なダメージを与えてしまうことを初めて知りました。業界のお話をすれば、全国の書店さんがシャッターを下ろす中、当初はネット通販業界がその代役を引き受け、全国の読者に本を届けてくれました。しかし、宅配流通の急激な増加に耐え切れず、ネット通販は生活必需品を優先にすると宣言し、本の流通は滞る事態となったのです。私たちの「当たり前」の日常も大きく変わりうることが身に沁みた自粛期間でした。
昨年の11月から今年1月末の3ヵ月間、小社は新刊がない状況を体験しました。ひと月は経験していましたがさすがに三ヵ月はありません。ですが生き残ることができたのです。それは多くの既刊書が支えてくれた結果なのです。
●李哉泫・森嶋輝也・清野誠喜著『EU青果農協の組織と戦略』(2019年10月刊)が日本農業経済学会の2020年度の「学術賞」を受賞しました。執筆者の先生方はEUに展開する大規模青果農協を6年にわたり訪ね歩き、伝統的協同組合を堅持している農協、ハイブリッド農協へと変容する農協が、大手スーパーチェーンとの取引を強いられる中での、これまでの対応の数々をケーススタディにより明らかにしています。組織形態、ネットワーク構造、ガバナンス方式からなる「組織構造」と「マーケティング戦略」という二つの側面からアプローチし検証された労作です。
●毎年、正月に神田明神の商売繁盛の「熊手」を購入しています。いつも「大」を手にしていたのですが、今年は「大」は早々に売り切れ「中」となってしまいました。「ご利益が……」と不満そうな私の顔を察してか、巫女さんは、「大きさは関係ありませんよ」と声をかけてくれます。でもなんか不安です。3ヵ月間の新刊空白、忍び寄る「渦」のなか、会社の現状を踏まえ社員のみんなと率直に話をした時、「実直に仕事を熟す」ことこそが良い結果を生み出すとあらためて教えられました。会社には6本の「熊手」が居てくれます。
●弊社草創期から鉄道史学会にて、大変お世話になりました、東京学芸大学名誉教授・青木栄一先生が、去る5月4日ご逝去されました。心よりお悔やみ申し上げます。