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  • PR誌『評論』218号:「オンライン化」と公共施設マネジメント

「オンライン化」と公共施設マネジメント

中島 洋行

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、「オンライン〇〇」という言葉が急速に普及しつつある。学校では「オンライン授業」が行われるようになり、病院では「オンライン診療」も始まった。また、「オンライン帰省」や「オンライン飲み会」を楽しむ人も増えている。仕事に関しては、なぜか「オンラインワーク」とは言わないが、在宅勤務者が増えて、毎日会社に通勤するという従来の仕事のスタイルが変化しつつある。

「オンライン〇〇」の実現に大きく寄与しているのが、インターネット回線を介したウェブ会議システムの存在である。ウェブ会議システムは、大学における教育活動や研究活動も一変させた。ウェブ会議システムを使ったオンライン授業では、教室実施の場合とほぼ同等のクオリティの授業が可能となった。また、地理的に遠く離れている共同研究者との打ち合わせもウェブ会議システムを使うことによって、早朝や深夜でも頻繁に設定することが可能となり、研究論文のブラッシュアップに大きく貢献している。このように、オンライン化が私たちの日常生活に与える様々な変化は枚挙にいとまがない。

新型コロナウイルスの感染拡大防止には、3密(密閉空間・密集場所・密接場面)を避けることが重要である。ウェブ会議システムの普及の背景として、3密を回避しながら、一定程度コミュニケーションを取ることが可能である点が挙げられる。これによって、ウィズコロナ及びアフターコロナの時代には、従来は当たり前に行われていた、多数の人が一箇所に集まるという行動様式が大きく変化し、中長期的にはオンラインでできることはなるべくオンラインで行おうという風潮がますます強くなることが予想される。

上述したような社会の変化は、地方自治体が管理する公共施設、とりわけハコモノと呼ばれる公共建築物のあり方にも変化を及ぼすのではないかと考えられる。全国の多くの地方自治体では、老朽化が進む公共施設の維持管理に要するコストが財政を圧迫し、将来に向けて公共施設の総数や床面積の削減を行わなければ、それらの適切な維持管理が難しくなる恐れが高まっている。行政サービスの多くは、これまで基本的には、市役所などに住民が出向いて紙ベースで手続きを行うことを前提として提供されてきた。しかし、ウィズコロナやアフターコロナの時代を迎えて社会全体のオンライン化が今後、さらに進むと、住民は必ずしも市役所などに出向かなくても行政サービスの提供を受けられる可能性が高まる。同時に、地方自治体は行政サービスを提供するにあたり、現在と同規模の建物が必ずしも必要とされなくなる可能性が高まることが予想される。拙著『公共施設とライフサイクルコスト』の調査結果によれば、多くの自治体では、公共施設、とりわけ公共建築物の総数及び床面積削減に苦慮していることが明らかになったが、社会全体のオンライン化の進展は今後、公共建築物の削減に思わぬ形で寄与するかもしれない。

しかしながら、各自治体で行政サービスのオンライン化を推進する過程では、ICTを実現するために必要な情報インフラや情報システムの整備がこれまで以上に必要になることを無視できない。情報インフラや情報システムは、建物のように一度建設したら何十年も継続使用するわけではないが、技術革新のスピードが速い現代では、それらの更新サイクルは短くなり、システムの安定的な動作やセキュリティ対策のために必要となる巨額の維持管理コストも発生する。

したがって、社会全体のオンライン化が進むと、公共施設のあり方が変わり、そのような変化はライフサイクルコスト(Life Cycle Cost:LCC)のコスト構造にも影響を与える可能性が高い。すなわち、現在は、公共建築物の建設コストと維持管理コストの関係を通じて公共施設のLCCを考えることが大切だが、今後は、それらに加えて、公共サービスの提供に必要とされる情報インフラや情報システムの整備及び維持管理コストも考慮に入れたうえで、LCCの適切なマネジメントについて考えていく必要がある。公共建築物のLCCの算定が今後、より複雑なものへと変化していくことが予想される中で、私の研究活動もそうした時代の変化と共に新たなステージへと歩を進めていきたいと考えている。

[なかじま ひろゆき/明星大学教授]