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  • PR誌『評論』199号:自由民権〈激化〉の時代② いま、『自由民権〈激化〉の時代』

自由民権〈激化〉の時代② いま、『自由民権〈激化〉の時代』

横山 真一

2014年11月2日、「加波山事件130周年記念シンポジウム」が福島県喜多方市松山公民館で開催された。その一週間後の九日、「秩父事件130周年記念集会」が埼玉県秩父市吉田農村環境改善センターで開催された。ともに会場を、多くの参加者が埋め尽くし盛況であった。自由民権運動から130年、「なぜ」多くの人々がシンポジウムや記念集会に参加し、自由民権運動を学ぼうとするのだろうか。
自由民権百年全国集会は、1981年11月の神奈川県横浜集会を皮切りに、84年の早稲田大学第2回全国集会、八七年の高知市第3回集会と連続して開催され、多くの成果を生んだ。遺族の顕彰・地域史・民衆史・私擬憲法・地方自治・教育史・女性史など、その成果は多岐にわたっている。成果の一つに、「生活者的研究者」と「職業的研究者」の交流がある。今では考えられないが、「職業的研究者」が「生活者的研究者」から学ぶこともあった。しかし、第2回全国集会で困民党研究、その後国民国家論が登場し、自由民権研究を取り巻く状況は変化する。両研究から学ぶ点は多いが、両研究は自由民権研究ではない。
自由民権研究が停滞した時期、自由民権研究者が何もしてこなかったわけではなかった。東京では自由民権120周年記念集会開催をめざした初会合が、2000年12月2日に開かれる。この動きは「全国自由民権研究連絡会」になり、『みんけん連通信』を10号発行し、2005年11月12・13日に「自由民権120年東京フォーラム」が開催された。
地方でも、地道に自由民権研究が継続された。また研究書もこれまで十数冊刊行されている。そしてこの自由民権120年の延長線に、昨年10月『自由民権〈激化〉の時代』が刊行された。本書は、福島・喜多方事件をはじめとする諸激化事件を、新たな視点から見直そうとする最新の激化事件研究書である。
特徴の第一は、地域の自由民権運動を熟知した「生活者的研究者」と最新の研究状況を知る「職業的研究者」の共同作業によってつくられた点である。この共同作業を通じ、両研究者は激化事件の新たな視点を提起しようとした。特徴の第二は、自由民権家が抱いていた暗殺・挙兵などの実力行使を再検討することである。もちろん暗殺・挙兵を肯定するつもりはない。しかし、単純にこのことを非合法な暴力行為と断罪することはできない。問題は、自由民権家がなぜ非合法な活動をしてまで政治・社会改革をめざしたのかが問われるべきである。
今後激化事件研究を深めるために、史料集の刊行は避けて通れない。自由民権百年の時も数多くの自由民権史料集が刊行され、自由民権研究の深化に役立った。しかし現在、まとまった自由民権史料など存在するのだろうか。私は、最後の未開拓自由民権史料として、法務図書館所蔵の激化事件関係史料に注目する。これらの史料は、かつて故手塚豊氏が精力的に紹介したが、それは膨大な史料の一部分であった。1937年発行の司法省『和漢書図書目録』を見ると数多くの激化事件裁判史料があることがわかる。1945年7月の甲府空襲で被災した史料や(『貴重書目録』参照)これまでに公刊された史料を除けば、「高等法院伺書、秋田県立志会員暴動事件」・「若松一件書類」(第1~39号・第1~8巻)・「長野県国事犯村松愛蔵等ニ関スル一件書類」(第1~41号)・「愛知県大島渚等強盗事件書類」(第1~9号)の記載がある。この他に、三重県の地租改正反対一揆裁判史料「暴動ニ関スル申渡書断刑録」や「板垣退助負傷一件書類」もある。
全貌が明らかでないため、その詳細を知ることはできない。しかし、かなり大部の史料群であることがわかる。問題は、これらの史料群の活字化が可能かどうかである。メンバーは、資金は、発行元は? ここから私の大いなる妄想が始まる。まず、メンバーは裁判史料に強い本書執筆陣や地域自由民権研究グループがいる。発行元は、義に厚く資料集の刊行に尽力されている日本経済評論社がいる。最後の難題は、資金と法務図書館への交渉か……
さて、冒頭の「なぜ」の答えを、私は死を賭してまで国民主権に邁進した激化事件関係者への尽きない真実解明の想いにあったと思う。
[よこやま しんいち/新潟県立長岡向陵高等学校教諭]