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拙著『軍事環境問題の政治経済学』で奨励賞をいただいて…

林 公則

2011年9月に日本経済評論社より刊行していただいた拙著『軍事環境問題の政治経済学』が、2012年10月の経済理論学会第60回大会にて第3回経済理論学会奨励賞を受賞することになった。受賞理由の詳細は経済理論学会のホームページでご覧いただけるが、「本書で、米情報自由法の活用によりこれまで秘匿されていた横田基地汚染の実態を明らかにしていることを含め、詳細なデータ、現地調査に基づき軍事環境問題の実態を解明している点は高く評価される」、「本書は、軍事によってもたらされる環境破壊という従来ほとんど取り上げられなかった領域に関する独創性のある研究成果であり、学会や平和運動に貢献するものと判断される」といった評価をいただくことができた。不安になりながら取り組むこともあったが、軍事という特殊な領域の研究が学術的な場で評価されたことを素直に喜んでいる。
拙著は、軍事基地における土壌・地下水汚染、軍用機騒音、そして軍事基地返還後の跡地利用を具体的な研究対象として扱っている。「あとがき」に記したのだが、執筆にあたって最も大事に考えた点は、それらの軍事環境問題に対してどのようなアプローチをとるかということであった。
軍事環境問題の分析においては、政府の失敗論、公害輸出論、公共財論、受益圏受苦圏論、迷惑施設論などといった見方も可能である。それぞれで分析結果が得られるのだが、たとえば、軍事環境問題を公害輸出論の枠組みで考えた場合、米国は環境を破壊する軍事活動を在日米軍基地で実施することによって被害を日本であえて生じさせている(公害を日本に輸出している)ということになる。米軍が在日米軍基地で軍事活動を行う理由の一つは、米国内基地に比べて在日米軍基地の方が軍事活動に対する環境規制が緩いからである(ダブル・スタンダードが存在するからである)。ダブル・スタンダードが存在するのは間違いないし、米軍にとって在日米軍基地が居心地がよいことも間違いないと思われる。しかし、軍事環境問題を公害輸出の問題として捉えた場合、解決策は、米国内基地と同様の環境規制を在日米軍基地内にも適用すべきだということになるだろう。私はこのことに違和感を抱いた。つまり、米国内基地と同じ環境規制が適用されさえすれば軍事環境問題は解決されるのかという疑問があった。とりあえずの目標としてダブル・スタンダードを解消するというのは理解できる。しかし、この考え方は、米国内基地と同じ規制であれば、軍事環境問題によって被害者がでていたとしても、それを黙認するということにつながる。
上記などを踏まえた上で、拙著全体を通じて貫こうと考えた視点が三つある。第一に、軍事技術の発展(近現代になる)につれて「生の破壊」が社会のいたるところにみられるようになってきたことである。そして、この傾向は改善されなければならないと考えていることである。第二に、軍事は国の専管事項とされてきたものの、国だけでは解決できない問題が多く出てきたことである。分野によるとはいえ軍事といえども国は地方自治体の意見を無視することができなくなっている。軍事に対して地方自治体や個人がいかに関わっていくべきかを考える必要がある。第三に、公共性の変化である。公共性の内容は時代や個々の具体的状況によって変化する。環境が重視されるようになった現代において、軍事環境問題の観点から軍事を問い直すことによってみえてくるものを描こうとした。
軍事基地が集中している地域に沖縄がある。沖縄の人々に役に立つ研究を行いたいと考えていたが、2012年4月に施行された「改正軍転特措法」に拙著の主張が反映された部分があったことは、今後の励みになる。「改正軍転特措法」は、返還された在沖米軍基地の跡地利用に係る法律であるが、軍用地料に代わる給付金制度で特に改善がなされた。
拙著の主張のなかで実現されていない政策(軍用機騒音被害者や遺棄毒ガス被害者に対する被害補償制度、地位協定の改定など)はまだまだ多いが、これからもそれらの政策の実現に資するような研究を続けていきたい。また、拙著では十分説得的には展開できなかったが、私が大切にしている「生の破壊」という考え方を深めていきたい。
 [はやし きみのり/都留文科大学非常勤講師]