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『国際政治史における軍縮と軍備管理』の編者を務めて

榎本 珠良

本書の執筆陣が参加する研究グループは、1990年代末より一連のプロジェクトを組織し、『軍拡と武器移転の世界史』(2012年、日本経済評論社)、『軍縮と武器移転の世界史』(2014年、日本経済評論社)をはじめとする成果を発表してきた。そして、2015年には明治大学に国際武器移転史研究所を設立した。本書は、この研究所の叢書第二巻である。
この研究グループによる一連の研究には、武器移転規制が必然的に軍備の削減・制限や「軍縮」全般に結び付くと捉える傾向や、「軍縮」と「軍備管理」の両概念が曖昧に同義に使用される傾向がみられた。しかし、実際の武器移転規制は、軍備の削減や制限と必ずしも同じベクトルを向くものではない。また、19世紀から現代までの軍縮や軍備管理の概念の有無や支配的な定義、政策領域の範疇、戦時国際法や国際人道法をはじめとする隣接領域との関係は、時代により変容している。本書は、そうした変容を踏まえたうえで、武器移転規制と軍備の削減・制限に照準を合わせ、過去の時代に関する研究が現代の政策論議に対して持ちうる示唆を考究するものである。
本書の刊行までの道程は必ずしもスムーズではなかった。国際武器移転史研究所の設立にあたっては、近現代の軍縮・軍備管理をめぐる構造について歴史学者と社会科学者等による学際的研究を行うことが掲げられた。しかし、過去の特定の時代の個別事象に関する歴史学者の関心と、近現代に通用する何らかの一般化を視野に入れた学際的研究という目的との距離は、埋めることが難しかった。執筆陣の研究テーマは武器移転規制と軍備の削減・制限の二種類に集中していたものの、この二種類を扱う意義や目的を議論する段階には至らなかった。私は各章原稿が集まった段階で編者となり、先に述べた本書の目的や問題意識を案出したが、それらが「後付け」の論理であることは否めない。
しかし、本書に至る一連の研究を基礎にして、歴史学者の側から、近現代の軍縮・軍備管理に関する学際的研究が提起され、現在の政策論議にコミットする方向性が示されたことは、世界的に見ても極めて稀な現象である。この目的の追求に資することができないかと散々に思い悩んだ末に、本書終章では、ご批判を覚悟のうえで、学際的研究に向けた課題について問題提起をさせていただいた。本書に対するご批正やご助言、そして今後の試行錯誤を通じて、国際武器移転史研究所が目指す学際的研究や政策論議に貢献することができれば幸いである。
また、これまでの日本語の書籍において、19世紀から現代までの軍縮・軍備管理を通史的に描こうとするものは極めて稀であり、とりわけ武器移転規制の分野では皆無である。本書の刊行が、近現代の軍縮・軍備管理に関する日本での研究の進展に結び付くことを願っている。
編者は、2003年より15年まで国際NGOにて軍縮・軍備管理の政策担当として勤務していた。09年頃に政治経済学・経済史学会の「兵器産業・武器移転史フォーラム」の活動を知り、翌年から出席をお許しいただき、12年には本書が依拠する科研プロジェクトに参加させていただいた。15年に国際NGOを退職した後は、通常兵器規制関連の政策業務を個人のコンサルタントとして引き継ぎつつ、明治大学国際武器移転史研究所にて勤務している。政策論議へのコミットメントを視野に入れた学際的研究の始動にあたり、本書のとりまとめを担わせていただいたことは、身に余る光栄であった。一連の共同研究に参加する機会を授けてくださった先生方には、心より感謝を申し上げたい。
本書刊行日(2017年3月24日)の午後に、本書の編集を担当いただいた谷口京廷氏が、翌月に定年退職されることを知った。谷口氏には、長年に渡り、本書に至る一連の共同研究に基づく書籍を編集いただいていた。谷口氏が退職までの40年間で編集された623冊のうち、本書が最後の1冊であったことを知り、ただ恐縮するばかりであった。これまでのご尽力とご指導に深謝申し上げるとともに、本書を踏まえた研究の発展を誓いたい。
[えのもと たまら/明治大学共同研究員]